人身事故、死亡事故
目次
過失運転致死傷罪とは
自動車運転死傷処罰法
かつては刑法第211条に「自動車運転過失致死傷罪」として規定されていました。しかし、依然として、飲酒運転や無免許運転等悪質・危険な運転行為が減少しなかったことを受け、平成25年から「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が制定され、厳罰化されました。
過失運転致死傷罪の罰則
過失運転致死傷罪は、7年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されることになり(自動車運転死傷処罰法5条)、重い刑罰を設けています。
無免許運転による加重
無免許運転を行い、過失運転致死傷罪を犯してしまった場合には、10年以下の懲役に処せられることになり、通常の過失運転致死傷罪に比べて加重されます。
飲酒運転との併合罪
アルコールを摂取した状態で、自動車等を運転し、事故により人を死傷させてしまった場合、飲酒運転と自動車運転過失致死傷罪の併合罪が成立します。この場合、一般的に懲役刑が選択され、10年6月以下の懲役に処せられます。
危険運転致死傷罪との違い
過失運転致死傷罪は、自動車の運転上必要な注意を怠り、人を死傷させた場合に成立する犯罪であるのに対して、危険運転致死傷罪は、単なる不注意ではなく、赤信号を殊更に無視する行為、正常な運転ができないほど飲酒した状態で運転する等、故意により危険な運転を行い、人を死傷させた場合に成立する犯罪です。
よって、危険運転致死傷罪は、過失運転致死傷罪に比べて重い刑罰が規定されています。
弁護方針
過失運転致死傷、危険運転致死傷を認める場合
実刑判決を避けるために、被害者と早期に示談をすることが重要になります。交通事故の場合、基本的には加害者の加入する保険会社が示談交渉を代行することになっていますが、保険会社の示談交渉に任せきりにしていたのでは、十分な反省の意を裁判官や検察官に示せません。保険会社とは別途、被害弁償金を支払うなどの弁護活動が必要となります。
示談を成立させるためには、弁護士が迅速かつ丁寧に、そして根気強く示談交渉に臨む必要があります。
過失運転致死傷罪の容疑で逮捕された場合、被疑者は勾留されずに、在宅捜査が行われる場合が多いです。なぜなら、逮捕段階において、捜査機関が十分な客観的証拠を確保していることも多く、被疑者が被害者に対する働きかけも考えにくいと判断されるためです。
逮捕されたものの、勾留されることなく釈放された場合、在宅事件となり、普段通りの生活を送ることができます。もっとも、捜査機関からの出頭要請には応じなければならず、捜査は継続されることになります。その後、捜査機関が捜査を行い、検察官が起訴・不起訴処分を決定することになります。
過失運転致死傷、危険運転致死傷を認めない場合
自動車の運転上必要な注意をしていたにもかかわらず、捜査機関に逮捕されてしまった場合には、早く釈放されたいがために、自動車の運転上必要な注意を怠っていた等と自白しないようにしてください。
弁護士に相談し、ご自身が運転上必要な注意をしていた、すなわち、過失がなかったという点を主張・立証をすることにより、無罪の主張をしていかなければなりません。出来るだけ大きくの証拠提出をすることで無罪を主張して弁護活動を行う事が可能です。
交通事故についてよくある質問
人身事故、死亡事故 事故当時、60歳で定年退職したばかりで無職でした。61歳で症状固定して後遺症等級が10級と認定されました。なお、私は大卒で退職時、定年延長請求はしなかったのですが、退職して1年くらいはゆっくりしてそれから求職する予定でした。この場合、休業損害と後遺症による逸失利益は請求できるのでしょうか。できるとした場合、請求額算定の基準はどうなりますか?
休業損害は請求できませんが、逸失利益は請求できるものと考えられます。
まず、休業損害についてですが事故当時、現に無職ですし、働く予定もなかったようですので損害はなく、請求できません。
次に逸失利益ですが、高齢者・無職の方については就労の蓋然性があれば、これを認める裁判例が多数存在します。本件では、就労する意思も能力もあったものと認められますので、逸失利益の請求は可能だと考えます。その際の算定基準としては、労働能力喪失率は後遺症等級10級で27%として、61歳の就労可能年数を11年、基礎収入を賃金センサス男大学・大学院卒60歳から64歳となるものと考えられます。
人身事故、死亡事故 所有する車を運転中に、居眠りしてガードレールに衝突するという自損事故を起こしてしまいました。この事故により、私と同乗者である妻及び友人の3人ともケガをしてしまいました。自賠責保険による保険給付はありますか?
友人及び妻にも原則として給付はありますが、運転者本人に給付はありません。
自賠責法によれば、同法による保障を受けるためには、被害を受けたものが「他人」であることが要件とされています。「他人」とは、「自己のために自動車を運行の用に供する者及び当該自動車の運転者を除くそれ以外の者」とされていますので、運転者本人には適用がありません。友人は、好意(無償)で同乗していたとしても「他人」にあたります。妻については「夫が専らその運転にあたり、自動車の維持費を全て負担し、他方、妻は運転免許を有しておらず、事故の際に運転補助の行為をすることもなかったなど」の事実関係であれば「他人」に当たるとした裁判例があります。
ただ、自損事故の場合、事案によっては「他人」性が問題となることがありますので、具体的事案に応じ弁護士に相談することをお勧めいたします。
人身事故、死亡事故 交通事故当時、同乗者がシートベルトを装着していなかったために損害が拡大したと認められる場合に、不装着をもって被害者の過失として考慮されるのでしょうか?
はい。ただ、裁判例では、不装着だった同乗者が助手席か後部座席かで相殺される過失割合が異なっています。助手席で5~20%の範囲で相殺されており、概ね10%程度が多いようです。後部座席だと5%か10%で認定されています。ただし、加害者の過失が著しく大きい場合には、被害者にシートベルト不装着の過失があった場合でも、過失相殺は否定されています。
平成19年の道路交通法の改正により、運転者は、助手席、後部座席を問わず同乗者にシートベルトを装着させる義務を負うこととなりました。助手席での不装着違反は、運転者に違反点数1点が付されます。助手席以外の同乗者の違反は、高速道路等において自動車を運転する場合のみ違反点数が付されます。事故時の同乗者の危険の度合いに応じて上記過失割合が異なっているものだと思われます。