告訴とは
目次
意義
告訴とは、 犯罪の被害者その他法律上特に権限を与えられた者が、捜査機関に犯罪による被害事実を申告して、犯人の訴追を求める意思表示を言います(刑事訴訟法(以下略)230条参照)。即ち、告訴には、犯罪による被害事実を申告するという側面と犯人の訴追を求める意思が含まれているという側面を有しています。なお、告訴は訴訟行為(訴訟手続において訴訟の主体が行う行為であって、訴訟法上の効果を発生させるもの)です。
被害届の提出や捜査機関の取調べに対する被害事実の供述等は、犯罪による被害事実を申告するという側面を有していますが、犯人の訴追を求める意思が含まれているという側面は有していません。この点で被害届の提出や捜査機関の取調べと告訴は区別されます。訴追を求める意思まで含まれているかについては、告訴状の記載等の形式面のみならず、実質的な部分も含めて判断することになります。
告訴は、捜査の端緒(犯罪があったと思われる兆候)となり得ます。そのため、検察官、検察事務官及び司法警察職員といった捜査機関は、捜査の端緒がある場合、捜査を開始します。
告訴権者
上述の意義の通り、告訴を行える者とは、「犯罪の被害者その他法律上特に権限を与えられた者」となります。「犯罪の被害者その他法律上特に権限を与えられた者」について、刑事訴訟法では、告訴権者と規定されています。
告訴権者について、刑事訴訟法では以下のように規定されています。
犯罪により害を被った者
230条は、いわゆる被害者について、告訴権者であることを規定しています。この条文が、告訴権者に関する原則的な規定と言えます。
ここで想定される“被害者”とは、犯罪によって直接の被害を受けた者を想定しています。
被害者の法定代理人
231条1項は、被害者の法定代理人が、告訴権者であることを規定しています。本来、被害者が告訴すれば足りるところ、なぜ、法定代理人に認める必要があるのでしょうか。
これには、告訴が訴訟行為だということが関係します。告訴は、意思表示を内容とする訴訟行為です。そのため、訴訟行為を行いうる能力が必要となります。ここで求められる能力とは、被害を受けた事実を理解し、告訴することに伴う利害関係について理解する能力ということになります。そのため、制限行為能力者のように、訴訟行為能力が認められ難い被害者の保護のため、被害者の法定代理人を告訴権者と認めています。
法定代理人とは、親権者(民法818条)及び後見人(民法839条等)を指します。法定代理人の地位は告訴時にあれば良いとされています。そのため、被害時に法定代理人の地位にあることは要求されません。また、告訴後に法定代理人の地位を喪失したとしても、告訴の効力に影響しません。
被害者の配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹
231条2項は、被害者が死亡している場合、被害者の配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹が告訴権者であることを規定しています。
被害者の配偶者、直系の親族又は兄弟姉妹であるかに関しては、一般的にも分かり得る事柄とも言えますが、民法の規定(民法725条~729条)を基に判断することになります。たとえば「親族」について、民法725条によると、①6親等内の血族②配偶者③3親等内の姻族が親族ということになります。
これらに該当するかは、被害者の死亡時点を基準に判断されることになります。そのため、被害者が死亡した時点で当該被害者と結婚していれば、その後別の人と再婚したとしても、なお告訴権者であるということになります。
もっとも、「被害者の明示した意思」に反しないことが条件となります。ここにいう「意思」とは告訴したくないという意思ということになります。そのため、死亡した被害者が告訴したくないという意思を有しているにもかかわらず、これに反して告訴をするというのは許されないということになります。
また、「明示」ということが求められている以上、告訴したくないという意思内容が明確に分かっている必要があります。その際、誰に意思を表示したのかといったことや、どういった方法で意思を表示したのかといったことは、問題にならないと思われます。
被害者の親族
被害者の法定代理人が被疑者であるとき、被疑者の配偶者であるとき、又は被疑者の4親等内の血族若しくは3親等内の姻族であるときに限られます。231条2項との違いは、直系以外の親族も範囲に含まれている点である。
死者の親族又は子孫
死者の名誉を毀損した場合、虚偽の事実を摘示していれば罰せられます(刑法230条2項)。死者の名誉棄損を含む、名誉に対する罪(刑法第34章)は、「告訴がなければ公訴を提起することができない」と規定されています(刑法232条1項)。そのため、親告罪ということになります。
しかし、既に死亡している以上、死者自身が告訴することはできません。そこで、233条1項は、死者の名誉に関して、230条の特則として規定することによって、「死者の 親族又は子孫」に告訴権を与えています。また、生前の名誉棄損(刑法230条1項)について、名誉を棄損された者が告訴しないまま死亡してしまった場合、233条2項によって、「死者の親族又は子孫」に告訴権を与えています。233条2項は231条2項の特則ということになります。ただし、被害者の明示した意思に反しないことも要求されます。
231条2項と同様、「親族」については、民法の規定が適用されます。また、「子孫」については明確な規定はありませんが、一般に、卑属(血族の中で自分より後の世代にある者)のうち、直系卑属がこれに当たると考えられています。親等についての制限がない以上、直系卑属であれば何親等離れていても問題ないと思われます。
ここで問題となるのが、「親族」や「子孫」といった身分関係が、いつまでに構築されている必要があるのかということになります。死者の名誉棄損は、当然死亡後になされるものとなります。そのため、死者との身分関係が死亡時になければならないとは考えにくいと思われます。そのため、「親族」や「子孫」といった身分関係は被害が生じた時点で構築されていればいいと思われます。
ちなみに、死者に関する侮辱罪(刑法231条)は親告罪ですが、233条は適用されず、231条2項が適用されることになります。
利害関係人の申立を受けた検察官によって、告訴をすることができる者と指定された者
親告罪とは、公訴の提起に告訴のあることを必要条件とする犯罪を言います。親告罪のような犯罪がなされているにもかかわらず、告訴できる者がいない場合、起訴されず処罰されないといった結論になりかねません。この結論は適切とは言えませんし、何より刑罰法令や刑事司法の適正な適用実現の観点からも適切とは言えません(1条参照)。そこで、利害関係人の申立てにより、検察官が告訴権者を指定することを認めています(234条)。
234条に基づく指定がなされるためには、前提として、告訴できる者がいない場合であることが必要となります。条文に規定されている「告訴をすることができる者がいない場合」とは、230条から233条に該当しうる告訴権者が全員死亡したため存在していない場合や、生存していたとしても告訴を行いうる能力を欠いている場合等が考えられます。
一方、後述する告訴期間を徒過した場合は、告訴をすることができたにもかかわらず、これをしなかったということになります。それにもかかわらず、なお告訴をすることは、後述する告訴期間の趣旨にも抵触することから、「告訴をすることができる者がいない場合」には該当しないと考えるべきです。
また、被害者本人が告訴しない旨の意思表示をした後に死亡した場合、告訴に犯人の訴追を求める意思が含まれている以上、告訴をしないという選択をした意思を尊重すべきですから、「告訴をすることができる者がいない場合」には該当しないと考えるべきです。
告訴できる者がいない場合にあたるとして、誰が利害関係人となるのかが問題になると思われます。もっとも、条文には、申立てができる利害関係人について、特に制限が置かれていません。従って、告訴につき事実上の利害関係さえあれば誰でもなしえます。
申立てがなされた場合、これを受理するか否か審理することになると思われます。「できる」という規定ぶりになっている以上、指定しなくても問題ないからです。即ち、指定権を行使するか否か、指定権を行使するとして誰を告訴権者として指定するかは検察官の裁量次第ということになります。
告訴期間
意義
告訴期間について、235条に規定が置かれています。235条本文によると、親告罪の告訴は、「犯人を知った日から6ヶ月を経過したときは、これをすることができない」とされています。即ち、親告罪の告訴期間は「犯人を知った日」から「6ヶ月」以内ということになります。親告罪につき告訴期間が置かれている趣旨(=235条の趣旨)は、被害者等告訴権者に告訴するか否かを検討させる考慮期間を与える一方、訴追するか否かという、本来検察にのみ与えられている起訴不起訴の決定権限にかかわるほどのものを長期間私人に与えておくことにより、不安定な状況が作出され続けるというのは適切ではないという点に求められます。
なお、非親告罪の告訴期間については条文上規定がありません。そもそも親告罪が、告訴がなければ公訴を提起することができない犯罪類型であるならば、非親告罪は、告訴がなくとも公訴を提起できる犯罪類型ということになります。そのため、非親告罪においては、告訴自体起訴不起訴に影響しないということになります。従って、非親告罪であれば、公訴時効(訴追されていない一定の時間の経過を理由に、国家刑罰権を消滅させる制度)が完成するまでの間であれば、起訴しうることになります。
解説
【「犯人を知った」の意義】
告訴するか否かの判断には、告訴権者と犯人との人的関係が重要な考慮要素になり得ます。従って、「犯人を知った」とは、犯人の住所・氏名等の詳細を知る必要はありませんが、少なくとも被害者等が、犯人が誰であるか、どういう人物であるかについて認識を得たことを言います(最決昭和39年11月10日)。
犯人が誰であるか、どういう人物であるかに関する認識の程度がどの程度求められるかについては見解が分かれていますが、235条の趣旨に告訴するか否かの考慮期間付与が含まれていることに鑑みると、少なくとも、告訴権者が告訴するか否かを決定しうる程度に、犯人が誰であるか、どういう人物であるかに関する認識の程度が要求されることになると思われます。犯人が複数いる場合は、正犯者と教唆者・幇助者とを問わず、そのうちの1人を知れば、犯人を知ったことになると思われます。
【犯人を知った「日」の意義】
犯人を知った「日」とは、当該犯罪終了後において、告訴権者が、犯人が誰であるかを知った日を指します。そのため、結果犯については結果発生時、包括一罪については最終行為終了時が基準となります。継続犯については、犯罪継続中に犯人を知った場合、犯罪行為継続中になされた告訴も有効とはなりますが、犯罪行為終了時点から告訴期間が進行することになります(最決昭和45年12月17日)。牽連犯については、全体を通じて最終の犯罪行為が終了した時点を基準となります。教唆犯、幇助犯については、その正犯の犯罪行為終了時が基準となります。
【「6ヶ月」に関する期間の計算について】
犯罪が終了した後の犯人を知った初日は算入されず、翌日から起算されることになります。末日が土曜日、日曜日または祭日等の場合は、 その翌日が末日となります(55条)。
例外
235条但書で「刑法232条2項の規定により外国の代表者が行う告訴」及び「日本国に派遣された外国の使節」に対する刑法230条又は231条の罪について、その使節が行う告訴については、「犯人を知った日から6ヶ月を経過した」としても、告訴できます。
告訴期間の独立
親告罪について告訴権者が数人存在する場合、告訴期間はそれぞれの告訴権者ごとに「犯人を知った日」から起算され、そのうちの1人が期間の徒過により告訴権を失ったとしても、他の者の告訴権に効力が及びません(236条)。告訴権者に告訴するか否かを検討させる考慮期間を与えている以上、告訴するか否かというのは告訴権者の自由だからです。
236条が典型として想定しているのは、犯罪被害者としての告訴権者が数人にのぼる場合です。これに対して、本来の告訴権者となりうる犯罪被害者のほか、法定代理人やこれに代わる者との間、あるいは数人の法定代理人等の相互間というのは、上記典型例から外れるため、236条の適用があるか問題となります。もっとも、判例はこのような場合であっても、236条の適用を認めています。
告訴不可分原則
告訴不可分原則とは、親告罪の告訴の効力は、原則、犯罪事実の全体に及ぶというものです。238条1項でも、親告罪について、共犯の1人又は数人に対してなされた告訴や告訴の取消しの効力は、他の共犯に対しても生ずると規定しています。また、告発又は請求を待って受理すべき事件についての告発若しくは請求又はその取消しにも準用されます(238条2項)。
親告罪について規定しているような文言である以上、非親告罪についてはどう考えるべきかが問題になります。もっとも、両者を別に考えなければならない理由がないため、非親告罪についても親告罪と同様に考えても問題ないと思われます。
告訴状
意義
告訴は、検察官又は司法警察員に対して、書面又は口頭によって行います(241条1項)。ここにいう書面が、告訴状ということになります。なお、告訴は口頭でも行うことができますが、その場合、検察官又は司法警察員は、告訴調書を作成しなければなりません(241条2項、犯罪捜査規範64条1項)。告訴調書は、形式面において一般の供述調書と変わらない以上、犯罪事実の申告と犯人の処罰を求める意思表示が録取されていれば、標題が「供述調書」であっても、告訴調書として取り扱われます。
被害届については、インターネットで「被害届 書式」と検索すると、別記様式第6号(犯罪捜査規範第61条)という形で、ひな型が見つかります。一方、告訴状については、インターネットで「告訴状 書式」と検索すると、モデルとしてwebに載せているページや、作成を請け負う等といったページが見つかると思われます。即ち、告訴状には一定のひな型が存在しないということになります。そのため、個人で作成することも可能ということになります。
作成のポイント
告訴状には、①告訴人の氏名・住所・電話番号等と判明している場合は被告訴人②告訴の趣旨③告訴事実(=犯罪事実の概要)④証拠方法等が記載され、最後に、被告訴人に対する厳重な処罰を求めます旨の意思表示を付記します。この意思表示の記載は、犯人の訴追を求める意思を示すものであり、被害届の提出や捜査機関の取調べと区別されるメルクマールになります。
告訴人の氏名・住所・電話番号等は、ご自身で書くことも可能ですが、その他の事項、特に告訴事実や証拠方法等については、専門的な知識が必要になってくる点も否めません。一方で警察に理解してもらえなければならないため、簡潔な記載が必要となります。その結果、書くべき点を書き落としていたり、書かなくても良い点を欠いていた等により、伝えるべきことがぼやけてしまい、告訴の趣旨が不明瞭になりかねません。また、告訴状が正式に受理されるよう、警察等の捜査機関に働きかけたり、主張や書証等を補充を求められたりする場合もあります(犯罪捜査規範65条)。そうすると、どうしても一般私人だけでは対応が難しくなるということも考えられます。
そのため、告訴に精通している弁護士に作成を依頼することが好ましいと言えます。具体的には、専門的な知識と法文書作成の経験が豊富であり、警察とのやりとりをする機会の多い弁護士が、告訴に精通していると言えるでしょう。