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略式起訴とは。前科になる?

略式起訴とは

略式起訴とは、略式命令を得るためになされる起訴をいいます。略式命令とは、略式起訴により開始された手続において、罰金または科料を言い渡す結論をいいます(刑事訴訟法(以下略)461条)
略式起訴から略式命令までの一連の手続きを、略式裁判(略式手続)といいます。

→461条
簡易裁判所は、検察官の請求により、その管轄に属する事件について、公判前、略式命令で、100万円以下の罰金又は科料を科することができる。この場合には、刑の執行猶予をし、没収を科し、その他付随の処分をすることができる。

検察庁のホームページによると、略式裁判とは、検察官の請求により、簡易裁判所の管轄に属する、事案が明白で簡易な事件(*1)について、被疑者に異議のない場合、正式裁判によらず、検察官の提出した書面により審査する裁判手続とされています。
後述しますが、当該事件が略式命令による処理に適さない場合、または当事者に略式命令に対する不服があるため正式裁判の請求をした場合、正式裁判(通常第一審の訴訟手続)に移行することも可能となっています。

正式裁判の請求がない場合や、正式裁判の請求があっても取り下げられたか棄却された場合、略式命令に確定判決と同一の効力が認められる(470条)ことから、略式命令には、刑の執行猶予のほか、没収その他付随の処分を付加することができます。具体的な付随処分としては、追徴(刑法19条の2)、保護観察(刑法25条の2)、公民権停止に関する処分(公職選挙法252条)、罰金等の仮納付に関する裁判(348条)などがあります。

略式起訴の手続

461条から、略式起訴は、100万円以下の罰金又は科料が科される場合に使用されます。100万円以上の罰金刑となる場合や、懲役刑や禁錮刑が科される場合は、公判請求がなされ、正式に裁判を行うことになります。

①検察官が略式手続に相当かどうか判断する

大前提として、略式起訴を含む略式手続も、起訴するか否か(=裁判官による審理を求めるか否か)に関する問題です。そのため、検察官の起訴独占主義(起訴するか否かは、検察官の独占的な権限であるという考え方(247条参照))が及びます。即ち、まず起訴するか否かを判断し、その後略式手続に付すか否かを、検察官の下で判断するということになります。

②被疑者に対して略式手続の説明

検察官による取調べの後、略式起訴による事件処理が相当と判断された場合、「検察官は、略式命令の請求に際し、被疑者に対し、あらかじめ、略式手続を理解させるために必要な事項を説明」した上で、「正式審判を受けることができる旨」を告げ、略式手続によることについて異議がないか確かめることが求められています(461条の2第1項)

③被疑者による同意書への署名押印

「略式手続によることについて異議がない」場合、被疑者は、略式手続によることについて異議がない旨を、書面で明らかにしなければならないとされています(461条の2第2項)
異議がない旨を書面にする趣旨は、部分的にでも、「公開裁判を受ける権利(憲法37条1項)」を放棄する以上、意思確認を確たるものにする点にあります。書面にする際は、一般的に、略式起訴を行うことについての同意書に署名押印をすることが求められます。(*2)

④検察官が簡易裁判所に略式命令を請求

略式手続に移行する場合、461条の2第2項の書面も添付した上で、公訴の提起と同時に、略式命令の請求を書面ですることが求められます(462条1項、2項)(*3)

⑤簡易裁判所による略式命令

簡易裁判所の裁判官が、略式起訴を認めれば、検察官の提出した書面により審理され、被疑者に対し、略式命令が下されることになります。
その際「罪となるべき事実、適用した法令、科すべき刑及び附随の処分並びに略式命令の告知があった日から14日以内に正式裁判の請求をすることができる旨を示さなければならない」とされています(464条)

罰金又は科料を納付した場合、事件に関する手続は終了することになります。もっとも、事件が略式命令による処理に適さない場合(*4)や、当事者に略式命令に対する不服がある場合は、略式命令を受け取ってから14日以内に正式裁判の請求をすることができます(465条1項)(*5)
なお、金銭を納付しない場合は、労役所で強制的に働くことになります。

略式起訴の目的

略式手続の目的は、比較的悪質でない軽微な事件を、正式な公判手続によらず、書面審理のみという簡易な手続により、罰金・科料の刑罰を言い渡すことにより、迅速に処理する点にあります。

略式起訴の特徴

略式手続においては、起訴状一本主義(=起訴状以外の書面及び証拠物等の添付や引用を禁じることによって、事件に対する予断を封じること)が妥当しません。そのため、検察官が請求時に起訴状と証拠(書類(*6)と証拠物)を一緒に差し出します(刑事訴訟規則289条)

そして、裁判所によって、訴訟条件の具備(訴えるための(形式的)要件を満たしているか)、公訴事実(起訴の原因となる犯罪事実)の存在、略式命令によることの相当性について、提出された証拠のみにより審査され、証拠に基づいて被告人が有罪であることの認定、量刑判断を非公開に行います。

当事者の出頭が不要である代わりに、審判に際して、当事者に争う機会が与えられていない点で、口頭主義を原則とし、公開の法廷で当事者双方が出席して行われる公判手続を原則とする現行法の刑事裁判手続において、略式裁判は、正式裁判と対の関係にあると言えます。

また、「略式命令」は、請求があった日から遅くとも「14日以内」にしなければならないとされています(刑事訴訟規則290条)略式手続は、事件数が膨大なものとなる罰金事件について、短期間による処理を定めることによって、裁判所の公判手続に伴う負担や検察官の公判における立証活動の負担を免れさせ、被告人にとっても公判期日における出頭や防御活動の負担を免れることを可能にするという意味を持ちます。(*7)

以上の特徴及び手続を踏まえると、正式裁判と略式裁判とで、以下のような違いが特に認められると言えます。

正式裁判 略式裁判
公開の法廷に当事者が出廷する。 公開の法廷で裁判は開かれず、当事者は出席できない。
書証のほか、口頭で話したことも証拠となる。 検察官から提出された書面でのみ審理。
ほとんどが数ヶ月以上の期間を要する(年単位になる場合もあり) 略式命令の請求から14日以内に終了する。
死刑を筆頭とした刑罰や、罰金刑が想定。 100万円以下の罰金刑もしくは科料のみ。
当事者の同意不要 当事者の同意必要
簡易裁判所or地方裁判所 簡易裁判所のみ

略式起訴の前科と対処

略式手続を選択した場合、必ず有罪となり、罰金・科料の略式命令が言い渡されます。
略式起訴による罰金や科料であっても、刑罰を受けた経歴がつくことから、罰金刑も、通常の罰金刑と同様に、前科がついた状態になることは避けられません。つまり、略式命令が出たということは、前科がついたということを意味します。

前科がつく事態を回避するためには、正式な公判手続を経て無罪判決を得るか、または検察官が起訴を見送るように働きかけ、不起訴処分を獲得するしかありません(*8)

略式起訴のメリットとデメリット

略式起訴には、以下のようなメリットとデメリットがあると言われています。

メリット デメリット
・弁護側は、証拠収集する必要がなくなる。
・非公開で手続が進行するため、第三者に見られることがない。
・早く終わるため、早期に釈放される。
・罪を認めている場合、被告人の負担が軽くなる。
・事実関係を争えなくなる。
・違法な捜査で得られた証拠がそのまま審理に使われる可能性がある。

略式起訴の利用実態

令和3年版犯罪白書によると、令和2年における検察庁終局処理人員総数80万7480人の内、公判請求に付されたのが7万9483人であるのに対して、略式命令請求に付されたのが、17万3961人となっています。
事件数では通常手続よりも多用され、簡易裁判所の扱う刑事訴訟事件の大半を占めている実情となっています。

略式起訴で罰金を払えない場合

略式起訴となったにも関わらず、罰金を収められない場合は「労役場留置」という措置が取られます(18条)

「労役場留置」とは、罰金の全額を支払うことができない場合、刑務所などの刑事施設内にある「労役場」という場所に収容され、罰金額を満たすまでの期間強制的に働くことを意味します。

通常は日当5000円として計算、土日は休みで、最大で2年間収容されることになります。

補足説明
(*1)
略式裁判で処理される事例は、100万円以下の罰金又は科料に付される事件となりますが、前科や前歴がない、初犯の人の場合だと、以下のような事案が該当すると考えられます。もっとも、事案によっては、以下の事案であっても、正式裁判になることもあります。
・道路交通法違反
・比較的軽微な過失運転致傷・傷害
・被害額が比較的低額にとどまる窃盗
・各都道府県の迷惑行為防止条例違反
(*2)
起訴前に略式手続に付することについて被疑者の同意があること、および、正式裁判の請求権が事後的に認められていることは、適正手続担保の観点から重要な意味を持ちます。しかし、被疑者の同意を条件とすること及び罰金で済むという結果の受け入れ易さから
①事実関係を争いたいと考えていても、一定額の罰金を払うことと公判手続の負担とを比較し、略式手続に同意してしまいかねない(その結果、実体的真実に基づかない有罪認定、量刑の可能性が残る)。
②被疑者が略式手続に同意する場合として、身代わり犯人のケースが想定される。
③捜査過程に違法があったとしても、略式手続では証拠能力を争う機会がない以上、捜査の違法が放置される可能性がある。
といった問題点があります。
(*3)
公訴提起のために必要な起訴状(256条1項)と、462条で必要とされている略式命令の請求書は、一応別物であるが、実務的には、「次の被告事件につき、公訴を提起し、略式命令を請求する。」と記載した1通の書面が用いられることが多い(これを「略式命令請求書」と呼んでいる)
(*4)
書面審理に限界がある場合(たとえば、公訴事実の存在について別途証拠による認定を必要とする場合)についても、事件が略式命令による処理に適さない場合にあたると考えられます。
(*5)
正式裁判の請求により判決をしたときは、略式命令は失効します(469条)
(*6)
書面による審査ではあるが、自白法則、自白の補強法則、違法収集証拠の排除法則などは適用されると考えられています。
(*7)
もっとも、刑事訴訟規則290条は、判例上、訓示規定とされているため、刑事訴訟規則290条に反したとしても、罰則はありません。即ち、略式命令の請求から14日経過した後になされた略式命令は、当然に無効というわけではありません。
そこで、刑事訴訟法の、公訴提起の失効に関する条文によって、時間的限界を画しています。463条の2第1項によると、略式命令請求の日から4ヶ月以内に略式命令が被告人に告知されない場合、公訴提起の効力が遡及的に失われるとされています。
(*8)
起訴と並んでよく聞く言葉の中に、書類送検というものがあります。そして、書類送検や起訴によって前科がつくのかという問題があります。
書類送検とは、警察から検察庁に事件の書類等が送られた、ということを意味します。また、起訴とは、被疑者が有罪か無罪かを裁判所の判断にかける、ということになります。従って、書類送検や起訴だけでは、裁判官が有罪を宣告したわけでもないので、イコール前科がつくというわけではありません。
書類送検後、検察官が正式起訴を行った場合、裁判官が有罪判決を出し、確定して初めて「前科」となります。
つまり、不起訴処分となった場合は前科にはなりません。もっとも、不起訴処分となった場合も、書類送検されたという事実は「前歴」として警察の方で記録されます。

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