逮捕と勾留の違い。逮捕後の流れと勾留期間。
目次
逮捕とは
「逮捕」とは、被疑者が逃亡するおそれや証拠を隠滅されるおそれを防止しつつ、捜査を遂行するために被疑者を比較的短時間拘束することを言います。
また逮捕には「通常逮捕」「緊急逮捕」「現行犯逮捕」の3種類があります。
通常逮捕は「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があること」で逮捕状が発せられた場合です。
緊急逮捕とは、法定刑において重大犯罪を犯したことを疑うに足りる十分な理由がある中で、逮捕状の発布を求める時間的余裕のない場合、逮捕の理由を被疑者に告げて逮捕することを言います。
現行犯逮捕とは、「現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった現行犯人」、「罪を行い終わってから間もないと明らかに認められる準現行犯人」に対して、令状なしに逮捕することです。
逮捕〜勾留の流れには、「逮捕前置主義」という大原則が存在しており、被疑者を勾留するためには逮捕が先行していないといけないとされています。
勾留とは
一方「勾留」とは、逮捕の期限内に勾留請求がなされた場合に、被疑者もしくは被告人に対する身柄拘束を言います。警察官・検察官による取調べや、引きあたり捜査などが行われます。
上述の通り、逮捕とは、被疑者を比較的短時間拘束することを言います。一方勾留とは、対象者の身体を一定期間拘束する処分を言います。両者とも、身体を拘束するという点で共通していますが、短時間の拘束なのか、一定期間の拘束なのかという、“期間”の面で区別することができます。
勾留の条件とは?
逮捕されたら必ずしも勾留されるというわけではありません。
逮捕から勾留までの流れについては、詳しく後述しますが、検察官が逮捕後の勾留が必要と判断した場合、検察官が裁判官に対して「勾留請求」を行います。
そして基本的には勾留請求が行われた当日中に、裁判官による被疑者に対しての「勾留審問」が行われます。そこでは、被疑事実の内容を告げ、認否を問います。そして、「犯罪の嫌疑」「勾留の理由」「勾留の必要性」があると判断した場合に、勾留が認められることになります。
「勾留の理由」とは下記の3つを指します。(刑事訴訟法第60条第1)
①被告人が定まった住居を有しないとき。
②被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
③被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
①の「定まった住所を有しないとき」とは、被疑者が住居を黙秘しており判明しないときや、逮捕により解雇されてしまい社宅に住めなくなっている場合などが該当します。
②の「罪証を隠滅」とは、犯罪に関係する証拠を隠してしまうことです。物の場合もあれば、関係者と接触することも含まれます。ただし、被疑者と関係者に連絡のつながりがなかったり、示談などが成立している場合は、罪証を隠滅しないと判断される可能性が高くなります。
③の「逃亡」はその通りの意味になりますが、しっかりとした定食についている場合や、扶養家族がいる場合は、逃亡の可能性はないと判断されやすくなります。
拘留と違う?
似た言葉として「拘留」があります。こちらは軽微な違反に対して、一定期間刑務施設に収監するという刑罰の一種になります。「勾留」は刑罰ではなく、逮捕後の一定期間の拘束を意味しますので、全く違う言葉になります。
ちなみに軽微な違反とは、軽犯罪法違反・公然わいせつ罪・暴行罪などが当てはまります。
「逮捕=有罪」ではない
有罪(判決)は、被疑者が起訴され、法廷の場で審理され、証明の結果、被告人が犯人であると認定されて初めて出されます。
従って、逮捕と有罪は性質的に異なるものということができます。刑事訴訟では「推定無罪の原則」と呼ばれる原則が存在しており、刑事裁判で有罪と確定されるまで、被疑者・被告人は無罪であると推定されます。そのため、逮捕時点では、被疑者は無罪であることが推定されている状態といえます。
逮捕・勾留の期間について
逮捕された場合、身体拘束は最大で3日間(72時間)とされています。
その間に、検察官に送致し、勾留請求するかしないかの判断をすることになります。この時、勾留請求をしないという判断がなされた場合、釈放されることになります。ただし、釈放されたとしても直ちに不起訴処分になるわけではなく、在宅で捜査が続行されることもあります。
勾留請求がなされた場合、これが認められるか否かで身体拘束の期間は変わります。勾留請求が却下されれば、釈放されることになります。ただし、直ちに不起訴処分とならないということは上述の通りです。
そして、勾留請求が認められた場合、原則として10日間の身体拘束が認められることになります。もっとも、やむを得ない事由があれば、さらに勾留が延長され、最大で10日間の勾留が、さらに認められることになります。やむを得ない事由とは、組織的犯罪であった場合・重罪である場合・被疑者が罪を否定している場合などがあげられます。
勾留(延長)満期となった時には、起訴するか、釈放するかの最終的な判断を検察官が下します。これを終局処分といい、逮捕から終局処分まで最大23日間の勾留期間がある可能性があります。
釈放された場合、直ちに不起訴処分とならないということは上述の通りです。一方、起訴の場合は被告人勾留へ切り替わることになります。
逮捕から勾留までの流れ
上述の通り、逮捕は最大3日間、起訴前勾留は最大20日間続く可能性があります。
その期間にどのような手続きが行われるのでしょうか。
(1)警察による身柄拘束・取り調べを受ける
逮捕をされると警察によって身柄拘束が始まります。その期間は48時間以内と決まっており、その間は自由な行動を制限され、自宅に帰ることや知り合いに連絡をすることが制限されます。
それと同時に、警察官による取り調べ・指紋やDNAの採取などが行われます。警察が留置をする必要があると判断した場合、この48時間の間に書類及び証拠物と共に、被疑者を検察官の元へ送致します。
(2)逮捕後48時間:検察官への送致
検察官への送致(送検)をされた場合、それから24時間以内にさらに取り調べが行われ、刑事裁判を提起するかどうかが検討されます。
しかし、その24時間以内では捜査が不十分で、刑事事件を提起すべきかどうかの十分な証拠が集まらなかった場合、検察官はその24時間のうちに裁判官に対して「勾留」をしたいと申し出ます。この申し出が「勾留請求」と言われます。
(3)逮捕後72時間以内:勾留請求・勾留質問
検察官から「勾留請求」がされた場合、勾留を受けた裁判官は被疑者と面接をして勾留するかどうかの判断をする「勾留質問」を行います。一般的に、勾留請求がされた同日に勾留質問が行われます。
(4)逮捕後の勾留
裁判官によって勾留請求が認められた場合、勾留状が発布され勾留が決定します。
基本的に勾留の期間は、勾留請求日を1日目として「最大10日間」とされています。
(5)勾留期間の延長
検察官から勾留期間を延長したいとの請求があり、裁判官も「やむを得ない事由」があると認めた場合は、勾留期間がさらに最大10日間延長されます。
(6)起訴・不起訴の決定
勾留期間が終わると、検察官は起訴・不起訴を判断します。
検察官が厳しい処罰が必要と判断すれば、起訴(公訴を提起)をされて刑事裁判へと進みます。一方で、様々な事柄を鑑みて刑罰は必要なしと判断されれば、不起訴となります。
令和2年版の犯罪白書を参照すると、刑法犯全体で起訴された割合は38.2%とあり、起訴される割合は4割に満たない程度ということがわかります。
起訴された場合、「被疑者」から「被告人」へと変わり、起訴後も身柄の拘束が続く場合があります。これを「被告人勾留」といい、原則として公訴提起日から2ヶ月とされています。
(7)起訴された場合
起訴には、「公判請求」「略式命令請求」「即決裁判請求」があります。一般的に刑事裁判で想像されるものは、刑事訴訟法上は公判と言われます。「公判」は傍聴人に公開されます。一方で、「略式」では書面のみで審理される手続きとなります。
略式手続きは非公開で審理が行われるため、被告人にとってメリットがあるように感じられますが、簡易裁判所が管轄する100万円以下の罰金、または科料が予定されている事件のみに限られます。
さらに、略式手続きでは無罪を主張することができません。必ず有罪となり罰金や科料が言い渡されることになるため、無罪を主張するのであれば、公判で裁判官の審理を受ける必要があります。
勾留中は家族と面会できる?
基本的に、勾留中は家族・恋人・知り合いとの面会が可能です。勾留決定と同時に「接見禁止」が決定された場合は、家族であっても面会をすることはできません。
家族や恋人と面会する場合は、必ず係員が同席し監視されたり、1日にできる面会の回数や時間が制限されたりします。弁護士であれば、そういった制限なく面会が可能です。
ただし、勾留は逮捕後72時間以内に決まるため、逮捕~勾留までの期間は、原則として家族であっても面会をすることはできません。この期間に面会ができるのは、弁護士だけになります。また、弁護士の中でも自分で選任する私選弁護士のみが面会可能となります。金銭的な事情などで国選弁護士を選任する場合は、勾留後からのみとなります。
勾留中に釈放される方法とは?
勾留が決定された場合でも、勾留を決定した裁判官に「勾留の要件を満たしていない」として異議を申し立てる「準抗告」の申し立てができます。
準抗告が認められる理由として、「示談の成立」があげられます。被害者から被疑者を許すという内容の文言(=宥恕文言)の入った示談書を裁判官に提出します。
そういった手続きを経て準抗告が認められると、釈放されます。もし釈放が認められなかったとしても、勾留期間が短くなることもあります。また、1度目の勾留が決定し、さらに検察官による勾留延長が請求された場合にも、準抗告の申し立てが可能となります。
被害者とのやりとりが必要な上、しっかりとした手続きが必要となるため、弁護士に依頼することが良いでしょう。