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痴漢事件について

ニュース等で、「電車内で痴漢事件が発生した」といった報道を耳にしたこともあると思われます。
では、痴漢事件には何罪が成立するのでしょうか。

成立しうる罪名

痴漢事件においては、強制わいせつ罪(刑法(以下略)176条)が成立するか、迷惑防止条例違反が成立しえます。
なお、痴漢に付随して相手方の着衣等を破損等した場合は、器物損壊罪(261条)が成立することもあります。

強制わいせつ罪

176条は「13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。」と規定しています。176条が規定する要件(構成要件と言います)は①「わいせつな行為をした」こと、②「13歳未満の者」に対して①をしたこと、又は、「13歳以上の者」に対して、「暴行又は脅迫」を用いて①をしたこと、となっています。

【①について】
「わいせつな行為」と言えるかについて、判例は「徒らに性欲を興奮又は刺激せしめ、且つ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」かで決定するとされています。
これまでの裁判例においては

・陰部に手を触れる
・女性の乳房に手を触れる
・臀部に触れる

といった、性的にセンシティブな部位への身体接触のほか

・肛門に異物を挿入する
・自慰行為をして射精し精液を陰部に付着させる
・裸にして写真を撮る
・内縁関係にある男女を裸体にして性交の姿態および動作をとらせる
・行為者の面前で下着まで脱いで着替えさせる

といった行為が、「わいせつな行為」にあたると評価されています。

【②について】
176条における「暴行又は脅迫」とは、相手方の反抗を著しく困難にする程度のものを要するとされています。そのため、単に殴る蹴るといった物理的攻撃でなくても、暴行や脅迫と認められることがあります。
「わいせつな行為」自体が「暴行」に該当する場合を性的暴行と言います。性的暴行の場合も、これを原因とする恐怖心等の精神的圧迫により、被害者の反抗を著しく困難にするものであれば、176条が成立すると言えます。

迷惑行為防止条例違反

迷惑行為防止条例とは、住民等公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止することによって、住民の平穏な生活保持を目的とした条例を言います。規定ぶりや文言等で多少異なる点がありますが、迷惑行為防止条例は、全国の地方公共団体において、制定されています。以下では、福岡市迷惑行為防止条例を例に解説していきます。

 福岡市迷惑行為防止条例6条1項では、「何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」によって「他人の身体に直接触れ、又は衣服の上から触れ」たり、これらの他に「卑わいな言動」をすることを禁止しています。そのため、福岡市迷惑行為防止条例6条1項は、いわゆる痴漢行為について規定しています。

  「公共の場所」というのは、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、飲食店その他の公共の場所を指します。また、「公共の乗物」というのは、汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物を指します。そして、「卑わいな言動」とは、判例によると、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作とされています。

 福岡市迷惑行為防止条例6条1項に反した場合は、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金となります(福岡市迷惑行為防止条例11条2項)。また、「常習」性が認められる場合は、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金となります(福岡市迷惑行為防止条例12条1項)。

判断のポイント

強制わいせつ罪に関する裁判例によると、性的にセンシティブな部位への身体接触は、「わいせつな行為」に当たると思われます。一方、迷惑行為防止条例では、「衣服の上から触れ」た場合にも、違反となることが分かります。以上を踏まえると、強制わいせつ罪になるか、迷惑行為防止条例違反となるかは、「着衣の上から触れる程度にとどまるか否か」が1つの指針になると思われます。
冒頭に記載した、電車内での痴漢行為で考えると、着衣の上から触れる程度にとどまるものは、直ちに「わいせつな行為」にあたるわけではなく、都道府県の迷惑防止条例違反の罪が成立すると考えられます。

この指針に基づき判断すると、着衣はないが相対的にセンシティブな部位とは言えない部分への身体接触(たとえば、接触部位が手や足、腕だった場合)はどうなるかが難しい判断になると思われます。もっとも、このような場合、実務では迷惑防止条例違反が成立する傾向にあります。

特徴

 警視庁のホームページによると、令和2年(2020年)、都内では約1300件の痴漢事件が検挙されています。強制性交や強制わいせつと異なり、痴漢は出勤・登校が集中すると思われる7~8時台に最も多く発生しています。次に多く発生している時間帯は、下校・退勤が集中すると思われる17時~19時台となっています。

強制わいせつは、22時~0時にかけて最も多く発生していますが、出勤・登校が集中する7~8時台も9~13時と比較して多く発生しています。これは、着衣の上から触れる程度にとどまらない態様の犯罪が発生し、強制わいせつ罪が成立したということが考えられます。データ上、7~8時台に強制性交等罪の発生が増加していないことも、その裏付けになると思われます。
 また、痴漢が発生した場所についても、駅構内が26.3%、電車内が25.4%となっている点が特徴的だと言えます。福岡県警察の「痴漢被害の実態等に関するアンケート結果について」というページでは、痴漢被害者のうち、6割以上が電車内で被害に遭っているというデータも上がっています。
 そして、痴漢被害を受けた女性の6割以上が複数回被害に遭っていることや、被害後乗る場所を変えた等行動を変えた人が44.3%もいること、電車内の痴漢被害後「誰にも相談していない」人が42.7%もいるということが、福岡県警察の「痴漢被害の実態等に関するアンケート結果について」というページに記載されています。以上をまとめると、痴漢事件にはいくつかの特徴があることが分かります。

 まず、誰もが被疑者・被害者になる可能性があるということです。福岡や東京に限らず、出勤や登校等に、電車をはじめとする公共交通機関を利用する人がいることは想定されます。出勤や登校の時間帯がおおむね7~8時台に集中している実情も踏まえると、この時間帯は利用客数が特に増えることが予想されます。その結果、いきなり被害を受けることや何もしていないのにいきなり疑われることも起こり得るでしょう。

 また、利用客数が多いということは、自身の周囲に多くの人がいるという状況が想定されます。その場合、実際に被害に遭ったとしても、誰がやったのか分からないということも考えられます。そのため、被害に遭った人の証言のみが証拠となるといったこともあり得るという特徴があります。

 さらに、痴漢の被害にあった人や痴漢の濡れ衣を着せられたような人には、大きな精神的負担が考えられるということも特徴として考えられます。痴漢被害者の場合、電車で被害に遭ったとしても相談できないといった実情や、行動パターンを変えた人がいるというのは、痴漢により著しい精神的苦痛を被ったことが原因だということが推測されます。
一方、痴漢の濡れ衣を着せられたような人については、身に覚えがない限り、突然痴漢と扱われ、目的地でもない駅等で拘束され、そのまま警察に身柄を移されたといったことになっていると想像されます。痴漢事件において、警察に対し自身の無実を主張した場合、警察としては逃亡するおそれや証拠隠滅のおそれがあると判断し、逮捕・勾留といった手続きへ移行すると考えられます。そのため、留置場で身体を拘束されることにもなりかねません。そのため、早く釈放されたいと考え、嘘の自白をする人もいます。あるいは、警察官の取調べ等により、嘘の自白をすることも考えられます。しかし、自白も証拠となり得る(憲法38条2項、刑事訴訟法319条)ことから、嘘の自白により有罪となることも十分あり得ます。仮に嘘の自白だとして、任意性に疑いがあるということで証拠として取り扱われないとしても、捜査機関や裁判所としては、そもそもなぜ嘘をついたのかという目で見てくることも考えられます。嘘の自白をして身柄を釈放されたとしても、「なぜあんなことを言ったのか」と後悔することも考えられます。

対応しうる弁護活動

痴漢を認めている場合

 自白している場合は、被害者と示談したり、意見書を提出することによって、不起訴処分や執行猶予の獲得を目指していきます。また、示談が成立すれば、釈放も認められ、民事上の責任も追及されないことになります。
 もっとも、示談をする場合、被疑者・被告人と被害者が直接示談交渉するということは基本的にありません。弁護士が被疑者の弁護人となり、被害者と連絡をとることになります。痴漢事件の被害者のほとんどは、自身の住所や連絡先を知られたくないと思っています。そこで、示談交渉に際しては、警察官や検察官を通じた連絡や被害者の指定する場所で示談を行うなど、被害者に最大限配慮した形で行っていくことになります。
また、示談を成立させるため(裏を返すと、被害者を安心させるため)に、被疑者に知られないことを予め説明することで安心させたり、示談の条項に被害者の要望(たとえば、犯行現場に近づかないでほしい、事件が起きた時間帯の電車には乗らないでほしい、二度と痴漢をしないでほしい等)を入れたりします。

さらに、示談に際しては、金銭を支払うことになります。示談額については、被疑者・被告人の経済力や民事訴訟における損害賠償額、当該事件の罰金額等といった諸事情を考慮して判断することになります。
仮に示談が不成立となった場合は、示談の代わりとして贖罪寄附を行い、不起訴処分の獲得を目指すことになります。

痴漢を否認している場合

被疑者段階の場合であれば、捜査の結果、裁判で有罪と証明することが困難と判断させ、嫌疑不十分としての不起訴処分を獲得するための弁護活動が最も重要になってきます。また、仮に起訴され被告人段階へ移行したとしても、公判段階で不利にならない(ひいては無罪を獲得する)ための弁護活動も行っていきます。
具体的には証言の分析や不利益な書面を作成されることの阻止、被疑者に有利な証拠の収集等を行っていきます。

冒頭に記載した、電車内での痴漢行為を例に考えると、痴漢行為を否認する場合、多くの場合何もしていないにもかかわらず、突然「痴漢だ!」等と言われ、痴漢扱いされることになったと考えられます。私人による現行犯逮捕も認められています(刑事訴訟法214条)から、電車内で身柄を拘束され、目的地でもない駅で身柄を駅員に渡されることになります。あるいは、電車内から通報され、同様に駅で警察官に身柄を引き渡されることになります。つまり、濡れ衣を着せられてから警察署に連行されるまで、ほとんどの人が味方になってくれないという状況になります。そして、そのまま駅員室や警察署で取調べを受けることになります。何もしていないにもかかわらず、被疑者という精神的にも非常に苦しい立場に置かれ、身柄を解放してもらうために、つい嘘の自白をするなんてことも考えられます。

その中で、弁護士は味方となる存在と言えます。弁護人に選任されれば、その日のうちに面会が可能となります。孤独に感じている被疑者の話を聞き、適切な方針を定めた上で弁護活動を行うことができます。場合によっては、職場等にも連絡をしてもらい、解雇に対して措置を講じてもらうようなことも想定されます。
また、弁護士は被疑者の味方ではありつつも、事件においては第三者の立場にもいます。そのため、証拠や証言等といった状況を冷静かつ詳細に分析することが可能となります。特に、被害者の証言については、論理的矛盾がないか、証言内容が変わってないか、警察が結論ありきで誤った誘導をしていないかを徹底的に分析していきます。よくあるケースとしては、「実際は別人による犯行であったにもかかわらず、痴漢によって動揺したことも相まって、つい近くにいた人のことを痴漢犯人だと言った」場合の証言や「実際には痴漢行為をされていないにもかかわらず、単なるストレス発散のために、つい近くにいた人から痴漢行為をされたと言った」場合の証言について、分析することがあります。
特に、被害者の供述について、最高裁判所の補足意見では「いわゆる狂言でない限り、被害体験に基づくものとして迫真性を有することが多い」としつつも「そのことから、常に、被害者の供述であるというだけで信用できるという先入観を持ったり、他方、被告人の弁解は、嫌疑を晴らしたいという心情からされるため、一般には疑わしいという先入観を持つことは、信用性の判断を誤るおそれ」があることも「供述の信用性の評価」に関する留意事項であるとの重要な指摘がなされています。

 証言の分析と並行して、警察や検察等の捜査機関に、被疑者にとって不利益な書面を作られないことが重要となります。弁護人に選任されれば、いつでも面会できるようになりますが、警察はその前に取調べを行います。この時に被疑者にとって不利な証言がとられた場合、これを後から覆すことは非常に困難となります。なぜなら、事件が起きてからすぐという点から、記憶が新しく、証言の信憑性が高いと判断されるからです。
 そのため、被疑者は逮捕等された場合、直ちに弁護士への接見を希望するべきということになります。これに対し、弁護士は被疑者へ不利益な書面を作られないようアドバイスすることになると思われます。

痴漢等で客観的な証拠となる具体例としては、防犯カメラの映像等が挙げられます。これがない場合、検察官や裁判官は、被疑者の供述と被害者の供述のどちらが信用できるかを考えていくことになります。そのため、弁護士としては、防犯カメラの映像やその場にいた人たちの証言を収集し、被害者の供述が信用できないことを伝えるための構成を整えていくことになります。

まとめ

WHO(世界保健機関)は様々な精神疾患の分類(ICD(国際疾病分類))を定めています。2018年、国際疾病分類が約30年ぶりに改訂されました。これによると、性的満足感を得られないにもかかわらず、痴漢等の性犯罪を繰り返すような類型について、「強迫的性行動症」という精神疾患であると認定しました。そのため、近年痴漢については病気だとみる見方もあります。少し古いですが、平成27年度版犯罪白書によると、痴漢の再犯率は非常に高いというデータもあります。一方で、条例や刑法で規定されている以上、痴漢が犯罪であることは事実です。そのため、当然に刑事事件の手続にかかることとなります。

また、痴漢事件は被害者にも心に大きな傷を与えます。複数回も被害に遭うこともあり、公共交通機関を利用することすら恐怖に感じてしまう人も出てくると思われます。そのため、何もなかったとしても、つい被害に遭ったと言ってしまうことが考えられます。しかし、これは冤罪を生み出す原因にもなってしまいます。

そのため、弁護士には、被害者に配慮しつつも、被疑者の利益を最大限に保護するという、困難な使命があると言えますから、自ずと、痴漢事件に強いあるいは豊富な経験を持つ弁護士を利用すべきだということになります。痴漢事件に関して豊富な経験を持つ弁護士であれば、たとえば、被疑者に専門的な医療機関でカウンセリングなどの治療を受けさせることも可能になると思われます。この場合、専門の医療機関と連携して、被疑者の治療の状況などを検察官や裁判官に伝えていくことになります。これにより、検察官や裁判官が被疑者の再犯可能性が減少したと判断することになれば、不起訴処分を獲得したり、執行猶予判決となることも可能となり得ます。

弁護士は被疑者のために弁護活動を行い、ひいては「病気」の治療の一環を担うことができると考えられます。そのため、身近な人が痴漢事件に巻き込まれた場合は、速やかに弁護士に相談し、早めに手を打っていくことをおすすめします。

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